酉の市

収穫祭の意味合いがあった酉の市

現在の東京都足立区にあった花又村の鷲神社(のちに花畑大鷲神社に改称)の近在住民の収穫祭が、現在の酉の市に発展していったとされています。秋も深まり、農作物の収穫が終わる現在の11月に、鎮守である鷲大明神に市がたち、農具や農産物を売る露店が立ちました。その中で売られていた農具の熊手が、飾り熊手に変化していきました。市で売られていた農作物の中には現在でも売られている名物があります。

頭の芋

大きな唐の芋「頭の芋」、この芋は八頭といい、古来より頭の芋(とうのいも)とも呼ばれ、人の頭に立つように出世できるといわれ、さらに一つの芋からたくさんの芽が出ることから「子宝に恵まれる」という縁起物です。

黄金餅

粟で作った黄金色の「黄金餅」も売られました。黄金餅は粟餅(あわもち)の別名といわれており、この粟餅は餅米5分に、粟5分の割合にして搗(つ)いて出来た黄色い餅のことを言い、この黄色が金色の小判に良く似ていたことから、お金持ちになるようにとの縁起で売られていました。現在、黄金餅(粟餅)を商うお店は無くなってしまったそうですが、団子屋さんを覗けばみつかるかもしれません。

切山椒

「切山椒」は上新粉に砂糖と山椒の粉を加えて搗いて薄く延ばして短冊形に切った正月用の餅菓子です。山椒は日本の香辛料で、葉、花、実、幹、樹皮に至るまで、全てを利用することが出来る落葉低木です。さらに、山椒の木はとても硬いのですりこぎや杖としても利用されています。このように捨てるところがない全てが利用できる(有益である)との縁起から切山椒が商われるようになりました。この切山椒は現在でも青、ピンク、緑にきれいに着色されたものが売られています。江戸時代には甘い菓子は少なく、祭や市などの時には甘い菓子が大変喜ばれ、参拝のおみやげに熊手と一緒に買われていたようです。

熊手

最後に農作物と一緒に売られていた農具である「熊手」です。もとは単なる落ち葉などを集める道具であった熊手が、「運」「金」を「掃き込む、かき込む」意味合いで飾り物に変化します。江戸市中からの参拝者が増えるに従って、実用的な熊手から江戸っ子が好む洒落がきいた縁起熊手へと変化していったと伝えられます。

酉の市の品を見ると「正月準備」の市のようですね。八ツ頭は現在でもおせち料理の中の一つですし、餅も祝いの料理です。熊手は落ち葉の多い晩秋に必須の農具でしょうが、年末の大掃除にも用いられます。人々がどれだけ正月を大事にしていたか当時の面影をしのばせます。

大鷲神社

足立区花畑の大鷲神社(佐竹扇を神紋にしています)を「上酉、本酉」、千住にある勝専寺を「中酉」、浅草の鷲神社を「下酉」と称しており、江戸時代から続いていた酉の市はこの3カ所でしたが、明治時代になり千住・勝専寺の酉の市が閉鎖され、花畑の大鷲神社と浅草の鷲神社とが唯一江戸時代から続く酉の市となりました。江戸時代の文献では「花又の鷲大明神」は鷲の背に乗ったお釈迦さまとされ、人々は「鶏」を献納して開運を祈り、祭が終了した後に浅草の観音堂前に放ったといわれています。因みに浅草の鷲大明神は鷲の背に乗った妙見菩薩とされています。

当時の浅草の鷲神社のすぐ隣には有名な吉原遊郭があり、酉の市には普段閉ざされている門が開かれて、とてもにぎわったという話が伝わっています。花畑よりも浅草の鷲神社が賑やかなのは吉原と相乗効果で大勢の江戸っ子が押し寄せたことがその所以なのかもしれませんね。

現在では全国各地の神社で酉の市が開きます。商売繁盛を願い縁起熊手を求める人でにぎわいます。この日は特別なお守り「かっこめ」という小さな熊手に稲穂と札がついたものが出されます。

小さな飾り熊手
かっこめ

 

熊手の粋な買い方

熊手は家内安全、商売繁盛を祈念し買い求めるもので、神社の社務所と授与される「かっこめ」が千円くらいです。そこからン十万円する高額な飾熊手までいろいろあるのですが、毎年買い替えるものなので、初めは小さい物を求め、徐々に大きくするのがよいとされています。売れすぎは2~5万円ほどだそうです。

これと決めた熊手があったならば、熊手屋さんと駆け引きの始まりです。どれだけ値切れるかは腕しだいです、うまくいけば熊手屋さんの気っぷのいい声が聞けるかもしれません。

値切った分だけ「ご祝儀」として店においてくるのが粋な熊手の買い方とされています。実質熊手屋さんの言い値で買ったことにはなりますが、お客様はご祝儀を出してちょっとした大名気分を味わい、熊手屋さんはご祝儀を頂いてより儲かった気分を味わったのです。その後、商いの成立を意味する手締め(手終い)を行い御家庭・会社の繁栄をその場の皆で祈念するのです。

 

熊手と名前旗・命名旗との飾り方

購入した熊手や授与された「かっこめ」は神棚や家の目立つ場所で高く掲げるように飾るものです。

当店では、季節の行事毎に名前旗、命名旗をだして一緒に飾ることを提案しています。酉の市の熊手と一緒に飾ることで、名を記したお子様が熊手にあやかり「福」や「お金」を掴み取れるという意味になります。ほかの年中行事よりも現世利益が前に出た祈りですね (;^_^A 。

かっこめ、熊手には持ち手があり、握るには良いのでが飾るには工夫が必要です。ここでは「かっこめ」を名前旗、命名旗と一緒に飾り室礼を整える礼を挙げます。

   

熊手の「柄」と「爪」部品を固定する横梁に隙間があるので、そこに紐を通して大きな輪を作ります。その輪の上端を旗竿の上部の溝に掛けることで一緒に飾ることができます。

 

年中行事の度にこうして名前旗、命名旗を飾ることで、お子様たちはご両親やご先祖の愛情を感じることになるでしょう。みんな元気に成長してね!